『田園の詩』NO.14  「鯉のぼり」 (1994.5.3)

 萌えでる若葉の山々を背景に、鯉のぼりが、からだいっぱいに風をはらんで
青空を泳いでいるさまは、この季節のなんともすがすがしい田舎の風景です。

 過疎化が進んでいるので、山里に住む若夫婦や子供はごく少ないのですが、
それでもあちこちに良く見受けられます。都会で暮らす若夫婦の実家の祖父母が、
庭に立派な鯉のぼりを上げるからです。

 毎日、見上げる子供のいないことは、一抹の淋しさはあるものの、お陰で、私達
は悠々と泳ぐ姿を楽しむことができます。

     
   4月上旬ころより「鯉のぼり」が見られるようになります。当地では、名前を染め
    こんだ「のぼり旗」(武者絵など)をセットで立てます。   (08.4.2写)


 鯉のぼりを見ていつも思い出すことが、私にはあります。それは、小学校の頃、
国語の本で読んだ次のような話です。

 電線にスズメの兄弟達(作者はそう思ったのでしょう)がとまって話をしています。
 元気のいい兄が「あの鯉のぼりの腹の中を通り抜けてみようか」と言って、サッと
 飛び立ち、見事に通り抜けました。気の弱い弟達は、なかなか思い切れません。
 それでも、一羽二羽と通り抜け、最後はみんなできて、一日中楽しく遊びました。

 実は、これと似たようなことが我が家に起こったのです。お彼岸を過ぎたある日、
大きな音がしたので、行ってみると、コジュケイが廊下の窓ガラスを割って家の中に
飛び込んでいました。鳥が家に飛び込むなんて、昔は時々ありましたが、ここ数十年
程はなかったことなので、新鮮な驚きを覚えました。

 子供が野鳥に興味があるので、一日だけ飼って観察した後、逃がしてやりました。
そしたら最近、取り替えたばかりの窓ガラスを割って、コジュケイがまた飛び込んで
来たのです。

 鯉のぼりを見て、スズメの話を思い出していた私には、コジュケイの兄弟が「俺も
やるから、お前もやれ」と張り合って、飛び込んだのではないかと思えるのです。

 「ちょっとこい、ちょっとこい」と裏山で元気に鳴いており、兄弟が沢山いるよう
ですが、もうやめてもらいたいものです。鳥も痛かろうし、ガラス代もかさむので。
                            (住職・筆工)

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